解答例
問題5
5.2010年、首都圏のある都市で外国籍イスラム教徒の人口が急増し、街には顔を黒い布で覆った女性が出歩く姿が目立つようになった。このため、周辺の地価が暴落した。そこで、そのような服装を万人に禁止する条例を制定するよう市議会に訴える住民運動を起すことになったと仮定して、かかる条例を正当化する議論を展開せよ。
解答
公共の福祉、公共の利益を守る観点から、人の服装をある程度制限する条例を定めることは憲法に違反しない。
人は、自由であるからと言って、どんな格好をしてもよいというものではない。成人が衣服を身に着けずに出歩けば、すぐに逮捕されるだろう。またその反対に着衣していても、人は他人に不快感や恐怖の念を与えるような格好をしてはいけない。顔を隠して出歩くことが当たり前になれば、銀行強盗やコンビニ強盗はずっとやりやすくなる。地価が暴落した背景には、異文化に対する漠然とした偏見もあろうが、一方で合理的な理由がいくつも存在する。
問題は、そのような格好をしているイスラム教徒が、信教の自由、人間の基本的人権を主張した場合にこれが正当か、ということである。まず、イスラムにおいては、女性がヘジャブを被ること、即ち、頭髪を隠し、顔と手首から先以外の肌を露出しないということが預言者のスンナによって求められているという事実がある。この教義を正確に適用するとき、顔を隠す行為はイスラムから逸脱した慣習・習俗の類であるという主張が可能だ。
それでも、黒い布で顔を覆う自由はあるはずだ、と主張する人の権利が制限されてよいのだろうか。「郷に入れば郷に従え」の諺が示す如く、その人の出身地ではそのような格好をすることがむしろ奨励されているのだろうが、日本においてはそうではない。ある特定の地域が、好ましい服装のコードを定めて全住民がそれを尊重する、ということは地域社会を守り育てていく観点から正当である。その地域に、理由あって他地域から移住し、健全な市民生活を送ろうという者はその地域のおきてを守らなければならない。
無論、この議論とは逆に「多様な服装を許す社会」ということに地域住民の多数が価値観を認めるのであれば、逆の条例を定めることも可能だろう。移民しながらその地域の慣習に馴染めない、という本件設問のような女性がいるとすれば、多様な文化の混在を許すそのような地域(国)を探して移り住むほかはあるまい。
解説
上記は、設問に対する解答例であって、解答者の見解を直接に示すものではありません。かかる条例の是非については判断が分かれるでしょう(意見の是非を採点するものではありません)。日本では、政府が移民に対して閉鎖的な政策をとっていること、及び、歴史的、地理的に疎遠であることが幸い(?)して、欧州で起きているようなイスラム教徒移民と地元民との摩擦はほとんど起きていません。しかし、設問は大げさですが、類似の摩擦に直面することは今後あるだろうと思われます。その際に、どのように信仰、良心の自由を守りつつ、他方で現代社会の基礎である世俗主義を守り抜くことができるか否かが問われるのです。